理事長挨拶

公益社団法人日本臨床細胞学会理事長挨拶(森井 英一)

この度、2025〜2026年の公益社団法人日本臨床細胞学会理事長を拝命いたしました森井英一です。理事長の就任に際し、皆さまにご挨拶申し上げます。

私は学生時代から病理学教室に遊びに行き、細胞診断や病理診断、病理解剖を経験させていただいておりました。その縁で大学卒業後、直接病理学の大学院に進み、細胞分化の研究、腫瘍細胞の多様性や治療抵抗性獲得機構の研究など、細胞はなぜこうならないといけなかったのかというテーマで「細胞」を対象とした研究を進めてまいりました。それと同時に、患者さんへの侵襲性の少ない診断である細胞診が治療方針の決定のために重要であること、 「細胞」の形をみる細胞診は細胞検査士の皆さまとともに、そして関わる診療科の先生方とともに正確かつ迅速に執り行われることが大切であることを実感し、多くの先輩、同輩そして後輩の皆様のお世話になり、広く細胞診と学会運営を学んできました。

本学会は2013年に公益社団法人化を実現し、公共の利益を担う立場と位置づけられました。そして、この法人化を出発点として名実ともに認められた学術団体へと発展を遂げましたが、それを維持し社会に貢献していくことが求められています。本学会を引き続き躍進させるために、明確な将来像を示し、それを実現していくことが必要です。公益社団法人化後、佐々木寛先生、青木大輔先生、佐藤之俊先生、岡本愛光先生が理事長を務められておられます。歴代理事長が目指された3方針、すなわち① 医療の現場を支えること、 ② 積極的な研究活動の支援を行うこと、③ 細胞診に関する情報を発信することの3点を引き続き堅持して学会の発展を目指したいと考えます。

まず、①国立研究開発法人国立がん研究センターより「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン更新版」が公開されたことを受けて、当時の理事長であった佐藤之俊先生より会員に対してこの「更新版」の内容に関する声明が公開されました。HPV検査の導入に関し、今後も学会として医療や社会の状況を注視し必要に応じた発信を行いたいと思います。岡本愛光前理事長が発出されたJapan-LBC宣言は、まさに医療や社会の状況に呼応した発信です。精度の高い子宮がん検診の品質保証の確立を目指し、HPV検査や細胞診を用いた子宮がん検診プログラム精度管理の資格化をより推進させていくこと、さらにデジタル化による細胞診断の新たな局面に対して迅速かつ適切に対応していくことが重要です。細胞診の現場に変革が求められている今だからこそ、細胞検査士や細胞診専門医の知識と経験を活かし、より患者さんに寄り添える素晴らしい体制を構築したいと考えます。

次に、②積極的な研究活動の支援を行うことについては、細胞診分野の研究課題に対する種々の助成を行い、いずれも成果を挙げています。「がんゲノム診療における細胞診形態の取扱い指針」の作成と公開、特別学術研究として細胞診の学術研究を推進するための支援などが行われ、がんゲノム時代における細胞検体の取扱いに関する情報などもホームページに公開されています。今後は細胞診領域のデジタル化、AIの寄与に関する研究も本邦の細胞診領域における立場をより明確化する上では必要です。これらの学究的研究や調査の活動は本学会や細胞診の将来の基礎であり財産でもあり、今後も継続して支援していきたいと考えます。

そして、③細胞診に関する情報を発信することに関しては、「日本臨床細胞学会雑誌」の内容と電子化された学術雑誌のあり方を見直し,さらに投稿規定やカテゴリー等を検討することによって、投稿数増加や論文の質を高める方策が講じられ始めています。デジタル対応した学会運営を通し、若い世代の方々を対象に細胞診について啓発を行いたいと思います。また、アジア地域の細胞学会が連合を作って細胞診研究を共創していくアジア細胞学会連合が設立され、長村義之先生がPresidentになられました。本学会のより一層の国際化を推進したいと考えます。

医療をめぐる環境は急速に変化しており、将来展望を描くのが一層難しくなっています。こうした時代であっても、日本臨床細胞学会が細胞診を通じて人々の健康維持に貢献し、医学・科学を追及する集団として期待され、発展し続けていくために、皆様と共に進みたいと考えます。本学会は、多彩な診療科の先生方、医師や細胞検査士といった多彩な医療従事者の皆さまで構成されています。すべての力を結集し、多様性を十分に活かした本学会の躍進を目指します。会員そして関連する皆様の益々のご理解とご支援を心よりお願い申し上げます。

公益社団法人日本臨床細胞学会理事長
大阪大学大学院医学系研究科 病態病理学・病理診断科
森井 英一

歴代理事長