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細胞検査士とは

細胞検査士の仕事

“細胞検査士”という職業をご存じでしょうか。聞き慣れない職業と思われた方も多いと思います。この職業は世界中で行われている仕事です。日本では約6000人が、学会認定の細胞検査士免許を持っています。また、この中の多くの人が国際免許も持っています。

ところで人間の体の中には約60兆個の細胞があります。それらの細胞が秩序正しく働いていれば問題ないのですが、世の中と一緒で秩序を見出し自由勝手に振る舞い周りをも巻き込んでいく細胞が現れます。その細胞がやがては人間が生きていくことを邪魔するのが「がん細胞」です。「がん細胞」をいち早く見つけ出し、退治するために毎日多くの時間顕微鏡で「がん細胞」を見ている細胞の番人が細胞検査士です。

子宮頸癌検診を受診されると、婦人科医が子宮内部の細胞を採取具でこすり取ります。それを顕微鏡で見るためガラスに塗りつけます。肺癌検診で提出された痰も、同様にガラスに薄く塗りつけて顕微鏡用の標本にします。細胞検査士は、これらの標本を細胞診用の染色液で綺麗に染めて顕微鏡で調べます。顕微鏡で見ると、そこにはとてもたくさんの細胞があります。この中に「がん細胞」や「怪しい細胞」があるか隅から隅まで観察します。異常のない細胞だけであると、細胞検査士が陰性として報告します。「がん細胞」、「怪しい細胞」などがあると、細胞検査士は問題の細胞の位置に印をつけ、推定診断、意見を書いて細胞診専門医に顕微鏡で見てもらいます。細胞診専門医が最終的に診断し報告書を作成します。

写真1:子宮頸癌検診の細胞診標本(正常例)
写真1:子宮頸癌検診の細胞診標本(正常例)
写真2:子宮頸癌検診の細胞診標本(悪性例:中央の大きな細胞が癌細胞)
写真2:子宮頸癌検診の細胞診標本(悪性例:中央の大きな細胞が癌細胞)

最近顕微鏡を見ていて特に気になることがあります。それは、子宮頸部細胞診で若い人から「がん細胞」、「怪しい細胞」が見つかることが多くなっていることです。子宮頸部癌はヒト・パイローマウィルス(HPV)という、性行為で感染するウィルスが原因であることがわかっていますが、このHPVに感染すると細胞の形も変わってきて、「怪しい細胞」として細胞診で見つけることができます。このようなことから、以前は30歳以上が子宮頸癌検診の対象であったのが、2005年から20歳以上に対象年齢が10歳引き下げられました。

「怪しい細胞(異形成といいます)」「表面だけの癌(上皮内癌といいます)」の状態で見つかると、子宮頸部の表面を削り取ったり、レーザー光線で焼き取って、子宮を残すことができます。しかし、癌細胞が表面の下の組織まで広がっていると手術で子宮を摘出しなくてはなりません。若い女性、これから子供を生みたい女性にとって子宮を失うということは、子供をあきらめることにつながりとても大きな問題です。以前は、子宮頸癌は子供を生み終えた女性に多かったのですが、今は妊婦検診時の細胞診で見つかることがよくあるのです。

しかし、日本における子宮頸癌検診の受診率は20%程度で、特に若い女性の受診率が低いことが問題になっています。受診率向上ための工夫・努力も、これからの細胞検査士の仕事と考えています。

さらに、近年では乳房の癌が増加してきています。乳房にしこりがあり、乳癌検診で異常があると、その部分に注射器の針を刺して細胞を吸い取り、それをガラスに塗りつけて調べます。これを、穿刺吸引細胞診といいます。細胞検査士は患者様のところまで出かけ、医師が注射器で吸い取った細胞をその場で細胞診標本にし、急いで染めて細胞が充分取れているか調べます。充分取れていることが分かれば針を刺すのは一度で済みますが、採れていなかったらもう一度医師に針を刺してもらって細胞を取ってもらいます。患者様が「結果はどうだろうか」と不安な気持ちで数日を過ごされ、次回受診されたとき、「細胞が採れてなくて診断できなかった」という返事をされることを極力防がなくてはなりません。このように患者様のところまで出かけて標本を作製するのを「ベットサイド細胞診」といいます。乳腺のほか、甲状腺、唾液腺、リンパ節などで行なわれます。

細胞診標本で細胞を染める方法にはパパニコロウ染色という方法と、ギムサ染色と言う方法が一般的に行なわれますが、細胞の判定が難しいときや、細胞の種類を正確に突き詰めるときには、さらにいろいろな方法で染めます。細胞質内の糖質、粘液などを染めて細胞の種類を調べる染色(特殊染色)、細胞が持っている特徴的な成分(目印)に対する抗体をくっ付けて発色させる染色(免疫染色)などもあります。これらの染色結果は細胞診の判定、診断の決め手になりますので、細胞検査士には適切な染色をして良好な標本作製する技術が必要です。そして、これらの標本作製技術の改良・開発するのも細胞検査士の仕事です。

写真3:胃癌の方の腹水細胞診で見つかった胃癌細胞(矢印)。
写真3:胃癌の方の腹水細胞診で見つかった胃癌細胞(矢印)。

免疫染色で上皮細胞膜に対する抗体(抗EMA抗体)の染色をすると、標本中に1個だけ染まる細胞が見つかった。

写真4:写真1の細胞を拡大したもの。中央の赤く染まっているのが胃癌細胞。
写真4:写真1の細胞を拡大したもの。中央の赤く染まっているのが胃癌細胞。

免疫染色をすると、極少数のがん細胞も見逃さない。

写真5:細胞の形では見分けがつかない細胞も、免疫染色で染め分けることができる。
写真5:細胞の形では見分けがつかない細胞も、免疫染色で染め分けることができる。

茶色:ヘルパーT細胞(抗CD4抗体)、青色:サプレッサーT細胞(抗CD8抗体)

赤色:B細胞(抗CD20抗体)

近年、細胞診の分野にも遺伝子検査が加わってきています。最も注目されているのは、子宮頸部癌の原因のHPVの遺伝子を検出して感染の有無とウィルスのタイプを調べる方法で、これはすでに実用化されています。

がんは細胞の病気なので細胞の核にあるDNAを取り出し、これを検査するために沢山コピーして増やしてDNAに異常があるかどうか調べる方法が現在研究されています。この方法を細胞の形だけでは「がん」なのかどうか分からないときに活用すれば、より早期のがんの発見に役立つので期待されています。このように、細胞に対するいろいろな検査法を研究するのも細胞検査士の仕事です。

現在、日本人の2人に1人は一生のうちに1度「がん」に罹り、3人に1人が「がん」で亡くなる事態になっています。細胞検査士は細胞をさまざまな方法で調べ、「がん」の早期発見と正確な診断に役立つことで、「がん」で亡くなる人が1人でも少なくなることに貢献できることを願って仕事をしています。

第65回日本臨床細胞学会春期大会

2024年 6月7日(金)~6月9日(日) 大阪国際会議場

第63回日本臨床細胞学会秋期大会

2024年 11月16日(土)~11月17日(日) 幕張メッセ 国際会議場
東京ベイ幕張ホール

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